MARKET FAQ


人材採用

日本では、契約名だけで雇用関係は決まりません。求人時の明示、日々の指揮監督、就業場所、内定、試用期間が法的関係と責任を左右します。直接雇用・業務委託・派遣・EOR、偽装委託とフリーランス法、内定取消し、競業避止・秘密保持、越境雇用紛争の準拠法と管轄を整理し、最初の採用から実行可能な仕組みを作るためのテーマです。 本コーナーは、旭時報 SUNRISE(寧旭メディア)が Startup Island TAIWAN のために企画・制作しています。 監修|日本法務:法律事務所 ZeLo 日本税務:税理士法人ZeLo 台湾法務:中銀法律事務所 台湾財務:urCFO 本コーナーの内容は、2026 年 8 月時点の日本および台湾の法令に基づいています。その後の法改正は反映されていません。個別の案件については、専門家による個別の判断が必要です。

7. 人材採用

日本で最初の従業員を採用します。求人を出してから雇用契約を結ぶまでに、法律上必ずやらなければならないことは何でしょうか。

求人を出してから契約を結ぶまでに、法定の明示が 3 回あります。求人を出すその時点、募集条件を途中で変更した時点、そして雇用契約を結ぶ当日です。3 回で明示すべき項目は同一ではなく、同じリストを最後まで使い回せません。 日本の労働関連法規が規律するのは、雇用した後のことだけではありません。貴社が日本で求人を出した時点で、すでに募集の段階に入ります。求人者である貴社は、労働者を募集するにあたり、法令が定める項目を明示する必要があります。項目は全部で 11 項目です。 残りの 2 つの時点には、それぞれ別の対応が必要です。募集条件を途中で変更した場合、変更した内容を、応募中の求職者に対して改めて明示しなければなりません。求人情報自体も、正確かつ最新の内容に保つ必要があります。雇用契約を結ぶ当日には、書面で改めて明示します。この時に明示すべき項目は、求人時のリストと同一ではありません。

なぜ

台湾では、まず求人を出して反応を見る、賃金はレンジで示す、細部は面接で詰める、という進め方が一般的です。日本の制度はこの順序を逆にします。求人情報そのものが、法的な効力を持つ明示だからです。さらに指針は、第一項明示を安易に変更し、削除し、又は第一項明示に含まれない従事すべき業務の内容等を追加してはならないと定めています。台湾で通用する「まず出してから考える」進め方は、日本の採用では手続上の負担が大きく膨らむ結果になります。 もう一方は、雇用契約を結ぶ当日です。労働基準法 15 条の明示義務に違反した場合には、30 万円以下の罰金が科せられます。最も確実な方法は、求人、変更の明示、契約書を通じて、労働条件の内容を一致させておくことです。途中で変更があればその都度明示し、契約締結の当日に、書き漏らした項目がないか改めて確認してください。

どうする

1. 求人を出す前に、以下の 11 項目を求人情報に記載してください。 (1) 労働者が従事すべき業務の内容に関する事項(従事すべき業務の内容の変更の範囲を含む。) (2) 労働契約の期間に関する事項 (3) 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間又は更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む。) (4) 試用期間に関する事項 (5) 就業の場所に関する事項(就業の場所の変更の範囲を含む。) (6) 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間及び休日に関する事項 (7) 賃金の額に関する事項 (8) 健康保険、厚生年金、労働者災害補償保険及び雇用保険の適用に関する事項 (9) 労働者を雇用しようとする者の氏名又は名称に関する事項 (10) 労働者を派遣労働者として雇用しようとする旨 (11) 就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項 記載した後も、そのままにしないでください。これらの条件に変更が生じた場合、契約締結前に、変更後の内容を応募中の求職者へ個別に明示し、検討する時間を確保してください。求人情報自体も併せて更新してください。 2. 新たに採用する従業員と雇用契約を結ぶ当日に、書面で改めて明示してください。契約書に記載すべきは、業務の内容、契約期間、就業の場所、始業終業・休憩・休日、賃金の 5 項目に加え、休暇・就業時転換に関する事項、有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項、退職に関する事項(解雇事由を含む。)です。求人時に記載した保険の適用、雇用しようとする者の氏名又は名称、派遣労働者としての雇用の有無、受動喫煙防止措置は、この時点では記載不要です。 3. 人材紹介会社を通じて採用する場合は、まず厚生労働大臣の許可を得た業者であることを確認してください。日本では、求人者と求職者の雇用関係の成立をあっせんし、手数料・報酬を得る行為(いわゆる有料職業紹介)は厳しく規制されており、厚生労働大臣の許可を得た業者のみが適法に行えます。人材紹介契約書を締結する際には、次の 3 点を交渉してください。紹介手数料の発生条件、紹介手数料の額、そして短期間で退職した場合の紹介手数料返還割合です。これらは交渉となることが多く、提示された条件をそのまま受け入れる必要はありません。

日本に法人を設立しておらず、日本で働いてもらっているだけの状態です。従業員との間で紛争になった場合、どこで、どの国の法律で処理されるのでしょうか。

労務提供地が日本国内であれば、日本の裁判所が受理するのが一般的です。日本法人がない場合も同様で、法人の有無は判断の分かれ目にはなりません。 日本で労使紛争を解決するルートは 5 つあります。任意交渉、行政機関による助言・指導やあっせん等、労働審判、通常訴訟、そして団体交渉です。このうち労働審判が最も早く、3 回以内の期日で終結し、期間は概ね 3 か月です。ただし、いずれかの当事者が 2 週間以内に異議を申し立てると、その事件は自動的に訴訟へ移行します。

なぜ

日本では、その労使紛争を日本の裁判所が扱うかどうかは、その方の就業場所がどこかで判断され、貴社の登記地がどこかでは判断されません。日本法人がなくても、従業員が東京で勤務しているのであれば、その方は日本の裁判所に訴えを提起できるのが一般的です。就業場所が定まっていない場合、裁判所は、その方を雇い入れた事業所がどこにあるかを見ます。 したがって、雇用契約に準拠法条項を置いても、日本ではその条項どおりに処理されるとは限りません。台湾の企業には「本契約は中華民国法に準拠する」と記載する慣行がありますが、それによって日本の労働法規を排除できるとは限らないのです。排除できるかどうかを決めるのは貴社ではありません。労働者が、就業場所の法にある特定の強行規定を適用するよう貴社に対して意思を表示すれば、その規定が適用されます。契約締結時に表示する必要はなく、事後の表示でも足ります。 なお、従業員がたとえ一人であっても社外の「ユニオン(合同労組)」に加入して団体交渉を要求することができ、会社が正当な理由なく拒否すると不当労働行為に該当するため、注意が必要です。

どうする

1. 日本で人に働いてもらう前に、管轄の枠組みをご確認ください。労務提供地が日本国内であれば、日本の裁判所が受理し、日本法が適用されるのが一般的です。日本法人の有無は、この点を変えません。 2. 雇用契約に準拠法条項を置く際は、それを防御手段とお考えにならないでください。契約で準拠法を定めていない場合、労務を提供すべき地の法が、最も密接な関係がある地の法と推定されます。就業場所が日本であれば、日本法です。定めた場合も、日本の労働法規のうち排除できない規定がいつでも援用され得ることを前提に、労働時間、解雇、賃金などの条件を設計してください。 3. 実際に紛争になった際は、どのルートを、どの立場で進めるかを、現地の弁護士と先に決めておいてください。これは、相手方が申立てをする前に決めておくべきことです。

事例

ケース:ある外資系企業の日本法人が、従業員から労働審判を申し立てられた事例です。労働審判では、訴訟となって多額の費用と時間を費やすよりも、早期段階でいくらかの解決金を支払い、当該労働者に辞めていただく形で解決することが多いかと思います。しかし、この件はそのようには進みませんでした。申立人側の請求に何ら根拠が無かったという事情はあったものの、外資系企業は金銭を払う気はないが、申立人は戻ってきてよいというスタンスであり、双方の立場は折り合わず、調停成立にはいたりませんでした。

労働審判が早いのは、実務上、会社が金銭を支払い、当該労働者が辞めるという形で解決することが多いからです。貴社の立場がそうでない場合、このルートは収束しないことがあります。どのルートを選ぶかは、相手方が申立てをする前に、現地の弁護士と決めておいてください。
まだ日本法人を設立していない段階で、日本で 1〜2 名を採用したいと考えています。直接雇用、業務委託、派遣、EOR のうち、どれから始めるべきでしょうか。

A:まず、日本法人があるかどうかをご確認ください。ある場合は直接雇用が最もクリーンです。まだない場合、残る 3 つにはそれぞれ相応の負担があります。法令に抵触するかどうかを最終的に決めるのは、その方をどのように扱うかです。 1. 直接雇用は最もクリーンですが、日本法人未設立のまま貴社が日本の社会保険・税・労務を回すのは、実装難度とコストが上がりがちです。2. 業務委託は始めやすい一方、安全かどうかは、その後の運用次第です。3. 派遣は適法な派遣スキーム(派遣元の許可等、派遣契約、運用)を整える必要があり、初期の外国スタートアップには運用負荷が重めになりやすいです。4. EOR は、現地の会社に名義上の使用者として雇用してもらう方法です。法人未設立で雇用的に人を使いたい場合に現実的になりやすく、その前提として、労務管理をどちらに置くかの設計が必要になります。

なぜ

日本では、その関係が雇用にあたるかどうかは、契約書の表題ではなく、その方を日々どのように扱っているかで判断されます。例えば業務委託では、日々の指示や勤怠管理をすると、偽装委託(実質雇用)になりやすくなります。EOR も同様で、貴社が直接指揮命令する運用の場合、無許可で行われるときは、労働者派遣法及び職業安定法に抵触する可能性があります。 実務上は、外国のスタートアップがこれらの方法を検討した結果、1〜2 名の従業員であっても、日本法人を設立しているケースが多いと考えられます。

どうする

1. まず、日本法人があるかどうかをご確認ください。ある場合、直接雇用が最もクリーンな方法です。まだない場合は、貴社が日本の社会保険・税・労務を自ら回すことの実装難度とコストを、先に見積もってください。そのうえで、法人を先に設立するかどうかをご判断ください。 2. 業務委託を選ぶ場合は、次の 4 点を同時に満たしてください。成果物ベースとすること、時間拘束を設けないこと、代替性を確保すること、そして独立性を確保することです。逆に、日々の指示や勤怠管理を始めると、日本ではその関係が雇用と判断されやすくなります。 3. EOR を選ぶ場合は、勤怠・休暇・就業規律などの労務管理を EOR 側に寄せてください。貴社が直接指揮命令することは避けてください。これが EOR という選択肢の唯一の安全な前提であり、この設計をしなければ、EOR は解決策ではなくリスクになります。

社会保険のコストを抑えるため、日本の方お一人と業務委託の形で協働しています。毎月定額の委託費をお支払いし、毎週オンラインの定例会にご出席いただき、業務は弊社から指示しております。この形は雇用と判断されるのでしょうか。

A:直ちにそうとはいえません。契約書で業務委託契約としていても、実態をみて、相手方が「使用され」て「賃金が支払」を受けている、すなわち使用従属関係にあると認められるならば、労働基準法・労働契約法上の労働者に該当するとして、これらの法律が適用されると考えられています。契約書の表題によって決まるものではありません。 ご例示の 3 点は、労働者性についての方向がそれぞれ異なります。1. 毎週のオンライン定例会の出席を求めることは、労働者性を肯定します。2. 会社の指示に基づくタスクを行わせることについては、当該指示が具体的であればあるほど、労働者性を肯定します。3. 一方、固定費(時間給とは関係しない形での算出)を報酬として支払うことは、むしろ労働者性を否定する要素です。他の要素にもよりますが、ご例示のものだけでは、労働基準法上の労働者に直ちに該当するとはいえません。

なぜ

使用従属関係につきましては、1985 年 12 月の労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」において、いくつかの要素により判断されると提唱されており、同要素が実際の裁判例において考慮されております。これらの要素が問うているのは、突き詰めれば 2 点です。その方が業務においてどの程度貴社の支配を受けているか、そして報酬の算定・支払方法が通常の給料にどの程度近いか、という 2 点です。 仮に労働者性が肯定されますと、貴社には 2 つの負担が生じるリスクがございます。1. 過去 2 年間の各保険(雇用保険、健康保険、厚生年金等)の徴収がなされること。2. 労働者であることを前提とした未払賃金(割増賃金を含む。)の請求をされることです。 実際に紛争となった場合についても、ご留意ください。個人事業者における事業者性、労働者性を減殺する事実関係は、基本的に使用者側が主張することとなると考えられております。また実務上、使用者側が、契約の名目が請負(業務委託)や委任といった文言であることしか主張しないと、裁判官から批判されることがあります。

どうする

1. 現在の体制を、次の 5 点でご確認ください。(1) その方は、依頼をお断りになることができますか。(2) 始業・終業の時刻や勤務場所を指定していませんか。(3) その方は、他の方に労務を提供させたり、補助者を使ったりすることができますか。(4) 業務遂行上の指示は、どの程度具体的でしょうか。(5) 報酬の算定・支払方法は、通常の雇用における給料にどの程度近いでしょうか。例えば時間給、欠勤による報酬控除、残業した場合の手当などです。(1)(2)(3) で自由が認められていないほど、(4) が具体的であるほど、(5) が給料に近いほど、労働者性を肯定する方向に働きます。 2. 委託先が、他に労働者を使用していない個人事業主、又は役員が 1 人である法人である場合には、フリーランス法が適用されます。委託の条件は、書面又は電子的記録(SNS のメッセージ、チャットツールを含む。)にて明示してください。報酬は、給付を受領した日から 60 日以内のできる限り短い期限内に、支払期日を定めてお支払いください。支払期日は日付で定めてください。適切な例は「●月●日支払」「毎月●日締切、翌月●日支払」であり、違反となる例は「●月●日まで」「●●日以内」です。支払期日を定めない場合には、給付を実際に受領した日が支払期日となります。 3. 設計の段階から、事実を残しておいてください。紛争になった際に裁判所にお示しいただくのは、契約書の表題ではなく、相手方が独立した事業者であることを示す具体的な事実です。

事例

ある会社が、個人で仕事をされている方と業務委託契約を締結し、一定期間協働しておりました。その後、当該個人事業主から、自分は実質的に従業員であると主張され、紛争が裁判所に持ち込まれました。この段階で、「その方は独立した事業者である」という事実を主張することとなるのは、会社側です。実務上、会社側が「契約書には業務委託と記載している」としか主張しないと、裁判官から批判されることがあります。(本事例は架空の設定であり、法的な骨格は先生からご提供いただいた実務事例に基づいて構成しております。)

日本人の候補者に正式なオファーを出し、相手方も承諾しましたが、今回の資金調達が不調に終わりました。このオファーを取り消すことはできますか。また、入社時に締結する競業避止と秘密保持の条項は、有効なものとして扱われますか。

A:余地はありますが、そのハードルは非常に高いです。資金調達失敗などの経済的理由による内定取消し、あるいは試用期間満了時の本採用拒否を合法的に行うことは、法律上不可能ではありません。もっとも、内定取消しは解雇に準じて厳しく制限され、それが経済的理由による場合には整理解雇に準じた厳しい要件が課されます。 入社誓約書における競業避止と秘密保持は、有効性の判断が異なります。競業避止義務については、憲法上の職業選択の自由との関係で強く制約され、必要かつ合理的な範囲に限って有効になりやすいです。秘密保持は、競業避止よりは一般的に有効になりやすいです。ただし、秘密の定義や範囲が広すぎる場合には無効・限定解釈のリスクが上がります。

なぜ

内定取消しがこれほど厳しく制限されるのはなぜでしょうか。日本法において、採用内定は始期付解約権留保付労働契約として取り扱われることが多く、内定通知を出し相手方が承諾した時点で労働契約は成立しており、就労開始の時期が先に設定されているにすぎない、という整理になります。会社は、一定の場合に契約を解約する権利を留保しているにとどまります。すでに成立した労働契約を解消する以上、解雇に準じた規律に服することになります。 入社時に締結する競業避止には、見落とされやすい区別があります。在職中の競業避止と退職後の競業避止とでは、有効性の審査の強度が異なります。退職後の競業避止は、職業選択の自由を強く制約するため、在職中の競業避止より格段に厳しく有効性が審査されます。

どうする

1. 経済的理由により内定を取り消す場合、次の二点がいずれも満たされている必要があります。(1) 会社の経営悪化が深刻であり、採用計画の前提が崩れ雇用維持が困難であること。(2) 取消しに至る前に採り得る他の手段を十分に尽くしていること。ここでいう手段には、雇用形態・条件の見直し、配置転換・職種変更の検討、固定費削減、入社時期の延期などが含まれます。 2. 競業避止の条項を作成する際は、次の四点をご確認ください。(1) 競業避止を定める必要性。(2) 制限の範囲。(3) 制限の期間。(4) 代償措置の有無。退職後の競業避止については、別途独立してご確認ください。在職中よりも厳しく有効性が審査されるためです。 3. 秘密保持の条項を作成する際は、秘密の定義や範囲を広くしすぎないようにしてください。

事例

ケース:あるスタートアップが従業員を採用する際、労働関係を定める契約書を交付しましたが、そこに記載された「一定の期間」が何を意味するのかは明確に書かれていませんでした。その後、この期間の意味をめぐって争いになりました。契約全体がその日までのものなのか、それとも契約自体に期間の定めはなく、その期間は試用期間にすぎないのか、という争点です。この点については、いずれかであるか不明な場合において、それが労働者の適性を判断する趣旨の場合には、無期雇用契約の試用期間であると解釈されると判断された事例があります。(本ケースは、いただいた実務事例の法的枠組みに基づき、弊社が状況を仮構したものです。)

雇用契約には、期間の定めがあるものと、期間の定めがないものの二種類があります。期間の定めがある場合、その期日の到来により契約は終了します。期間の定めがない場合、契約はそのまま継続します。試用期間と契約期間とは異なる概念です。したがって、採用時の書面に何らかの期間を記載する場合には、それが契約期間なのか、適性判断のための試用期間なのかを、同じ書面に明記してください。