MARKET FAQ


契約・提携

日本では、契約リスクは正式契約の締結前から生じ得ます。NDA・MOU・メール・口頭合意をめぐる契約成立、MOUの拘束力、電子署名と印紙税、社内決裁、準拠法を、具体的な場面に沿って解説します。交渉初期に文書の位置付け、決裁権限、締結日程をそろえ、意図しない拘束や実行段階の想定外を防ぐためのテーマです。 本コーナーは、旭時報 SUNRISE(寧旭メディア)が Startup Island TAIWAN のために企画・制作しています。 監修|日本法務:法律事務所 ZeLo 日本税務:税理士法人ZeLo 台湾法務:中銀法律事務所 台湾財務:urCFO 本コーナーの内容は、2026 年 8 月時点の日本および台湾の法令に基づいています。その後の法改正は反映されていません。個別の案件については、専門家による個別の判断が必要です。

1. 契約・提携

日本企業と提携を進める場合、NDA、MOU、正式契約という順番で進めなければならないのでしょうか。MOUを締結すれば、話がまとまったことになるのでしょうか。

順番は決まっておらず、MOUを締結したからといって話がまとまったことにはなりません。MOUのどの規定に法的拘束力を持たせるかは、基本的に当事者の合意に委ねられます。 契約締結までの流れとして、一つのよくあるパターンはNDA→MOU→正式契約というものですが、必ずしもこの流れを辿るわけではありません。NDA→正式契約のように、MOUの締結を挟まないこともあれば、MOUの代わりにLOI(Letter of Intent)を一方当事者が他方当事者に差し入れることもあります。最初から正式契約の交渉が始まり、秘密保持についても正式契約の中で決定・合意するケースも頻繁にあります。 MOUは多くの場合、法的拘束力を有しないものとされます。もっとも、あいまいさを避けるため、全部又は一部について法的拘束力を持たせる場合には、MOUの中でそのように明示的に定めることも多く、推奨されます。

なぜ

規定に法的拘束力を持たせるにあたっては、違反があった場合に損害賠償等で救済が図れるようにすることも重要です。したがって、どの規定を拘束力のあるものとするかという判断は、書式の選択ではなく、リスクの配分にあたります。 では、どの規定を拘束力のあるものとすべきでしょうか。判断の基準は、貴社の目的にあります。この提携で何を守り、何を得ようとするのかという点をあらかじめ整理しておくことで、拘束力を持たせるべき規定が見えてきます。

どうする

1. 手元のMOU、または相手方から提示された草案を取り出し、法的拘束力のある条項とない条項を明確に区別して規定しているかをご確認ください。文書のどこにも拘束力についての記載がない場合、どの条項が拘束力を持つのかが、全体として不明確なまま残ることになります。 2. どうしても先に確定させておきたい条件を選び出し、法的拘束力のある条項として定めてください。実務上、MOUで法的拘束力を持たせることが多いのは、独占交渉権、秘密保持、誓約事項の三つです。 3. 交渉の初期段階で、この提携をどのような流れで進めるかを相手方と決めておいてください。MOUを締結するかどうか、秘密保持をどの文書に定めるか、いつ正式契約の交渉に入るか。いずれにも決まった答えはありませんので、契約の流れや各契約・文書の位置付けについて、早い段階で当事者間の認識を擦り合わせておく必要があります。

事例

ケース:台湾のスタートアップA社が、日本の提携先と契約交渉を進めていたときのことです。A社は、なるべく基本的な条件について早めに当事者を拘束させ、将来の正式契約の交渉では大きな枠組みを変えず、細かい条件を調整するだけにしたいと考え、MOU全体(あるいは大部分)について法的拘束力を持たせようとする規定の挿入を試みました。しかし、文書全体が自社を拘束することになると分かった日本側は、MOUの内容の検討に慎重になり、このMOUは実質的に正式契約のような位置付けになりました。その結果、MOUの交渉段階だけで、かなりの時間を費やすこととなったのです。

MOUで拘束する範囲を広げるほど、相手方の検討も慎重になり、契約交渉が想定よりも長引き、事業の開始が遅れる可能性があります。特定の条件についてどうしても早めに合意しておくことが必要不可欠であり、それが合意できなければ白紙になるということであれば、MOU段階で中身に関する合意を一定程度盛り込もうとすることが間違いであるとまではいえません。もっとも、それによって何も始まらなければ、本末転倒になりかねません。
日本の取引先とメールで価格・数量・納期を取り決め、先方からも「これで進めましょう」との返信がありました。正式な契約書にはまだ署名しておりませんが、この場合、契約は成立していることになるのでしょうか。

成立している可能性もあれば、成立していない可能性もあります。 法律上、書面で締結することや締結後の書面交付が求められる契約もあります。保証契約などがこれにあたります。もっとも、基本的には書面は効力要件ではなく、口頭でも合意は成立します。 もう一つ、注意しておきたい状態があります。押印や署名がなくても、契約が成立することはあります。LOIについても注意が必要です。LOIのように形式的には一方的な文書であっても、実務上、内容については双方が交渉・調整して定められることもよくあります。その場合には、LOIに記載された内容の合意(契約)が成立していると評価されることもあります。 反対に、押印や署名を予定していたのにまだ行われていないという状況は、不成立を裏付ける根拠となり得ます。また、メールで大筋の合意ができていたとしても、それだけで成立するわけではありません。実際に合意を実行するために必要な細かな条件などが定められていなければ、正式に契約が成立したとまでは評価されないおそれがあります。

なぜ

「どの段階でどのような内容の合意が成立していたか(成立していなかったか)」という問題は、しばしば紛争の原因になります。そのため、何らかの合意をした場合には、なるべく契約書等の書面に残しておくことが実務上も極めて重要です。会議やメールで約束したままにせず、条件を明確化しておく必要があります。 では、成立しているかどうかは、どのように判断されるのでしょうか。当事者間の合意形成過程を、関連する資料や当事者の行動等から確認することになります。文書の形式そのものが結論を決めるわけではありません。契約書も必ずしも紙である必要はなく、最近は電子署名による締結も一般的に普及しています。

どうする

1. 何らかの合意をしたら、その内容を書面に残してください。会議やメールで取り決めた事項は、文章にまとめて相手方に送り、確認を取っておきます。 2. 合意を実行するために必要な細かな条件が、一つひとつ定められているかをご確認ください。その取引を実際に動かすために何が必要かを洗い出し、それらの条件をすべて盛り込みます。大筋の合意だけでは、正式に契約が成立したとまでは評価されないおそれがあります。 3. すでに取引関係にある相手方と条件を変更する場合も、その過程を残してください。既存の契約の条件を変更する契約や、新しい取引を行う契約を締結しようとした際にも、同じような問題が生じることがあります。契約書の署名までは完了していなかったとしたら、従前の契約が引き続き有効なのか、それとも新しい条件について合意があったのかが争点になります。この場合には、従前の契約がどのように締結されていたか、変更の理由・経緯、その後の当事者の言動といった事情も考慮されます。やり取りの記録を残しておくことが重要です。

日本の取引先から契約書への押印を求められ、紙の契約書には収入印紙を貼る必要があるとの説明もありました。電子署名で締結することはできるのでしょうか。また、収入印紙を貼らなかった場合はどうなるのでしょうか。

電子署名による締結は可能で、電子契約であれば収入印紙は不要です。紙で締結する場合、どの印章を用いるか、どのように押印するかについて、実務上一定の様式があります。 会社が用いる印章には、主に実印・銀行印・認印の三種類があります。実印は印鑑登録されており、重要な契約書などに用いられます。銀行印は法人口座開設時に銀行で登録され、銀行取引に用いられます。認印はそれ以外の印章であり、日常的な取引文書、例えば発注書や領収書などに用いられます。ただし、印章の使い分けについて法律上のルールがあるわけではなく、どのような書面に実印と認印のどちらが用いられるかは慣習によるところが多いです。 電子署名による締結も実務上かなり普及しています。大企業は押印を重んじるのではないかと思われることもありますが、実際にはその逆であることも少なくありません。大企業の方が契約書管理の効率性などの観点から電子契約の導入が進んでいることも多く、他方で老舗企業・中小企業では現在も紙の契約書を重んじられていることがしばしばあります。 印紙税は、契約書など一定の類型の文書に対して課税される税金です。契約の成否・効力に影響するものではありませんが、過怠税の対象となります。不動産売買契約書、金銭消費貸借契約書、継続的取引の基本契約書、5万円以上の領収書(受取書)などが典型例です。電子契約の場合には不要です。

なぜ

押印は、契約の成否そのものには影響しません。基本的に契約書の作成は法的な成立・有効要件ではありませんので、押印も成立・有効要件ではありません。もっとも、特に実印が押印された契約書は、その成立の真正が推認されることとなります。押印が左右するのは契約の有効性ではなく、後に争いとなった場合の文書の証明力です。 印紙税も同様に、契約の効力には影響しませんが、過怠税という負担が生じます。実務上忘れられやすいのは、継続的取引の基本契約書や領収書です。また、クロスボーダーの取引の場合、紙で契約書を作成・締結するとなると、どのような手順で押印・署名するのかというロジ面が問題となることもあります。

どうする

1. 紙で締結するか、電子契約で締結するかを先に決めてください。電子契約であればスピーディーに締結することができ、印紙税が不要となります。電子契約を選ぶ場合は、最後に締結する前に、修正が適切に反映されているか、削除した条項が残っていないかなどを再度ご確認ください。ファイル上で修正や交渉を重ねていると、複数のファイルが作成され、最終的なバージョンについて取り違えが生じるおそれがあります。 2. 紙で締結する場合は、どの印章を用いるかをご確認ください。重要な契約書には実印を用います。契約書が複数枚に亘る場合の「契印」、複数部作成する場合の「割印」など、押印の仕方についても慣習上一定の様式がありますので、押印時には確認を行うことが重要です。 3. その文書が印紙税の課税対象かどうかをご確認ください。不動産売買契約書、金銭消費貸借契約書、継続的取引の基本契約書、5万円以上の領収書(受取書)などが典型例です。電子契約の場合には不要です。

日本の取引先との契約について、先方から社内で手続を進めているところだとの説明があり、まだ署名に至っておりません。これは日本企業に共通する「稟議」なのでしょうか。あとどのくらい待つことになるのでしょうか。

必ずしも稟議とは限りません。日本企業の多くが稟議制を採っているとまではいえませんので、あとどのくらいかかるかを推測するよりも、その会社の意思決定の道筋を先に確認することが大切です。 特にスタートアップであれば、社長の一存で速やかに決定されるということも珍しくありません。他方で、伝統的な大企業には稟議制などの社内決裁プロセスがあることは通常であり、最終的な意思決定までに時間がかかることもあります。 一定の重要な契約には、取締役会や経営会議など、会社上層部の意思決定が必要となることもあります。重要かどうかは、規模や内容によって決まります。そのような会議は随時開催されるというよりは定期的に開催されますので、会議の議題に当該契約を含めてもらう必要があり、その分、最終的な意思決定までに時間がかかることになります。 もっとも、意思決定の速いスタートアップであっても、関門がないわけではありません。契約締結に第三者の同意が必要となる場合もあります。株主間契約や投資契約などにより、契約締結に投資家(株主)の事前承認が必要となる場合もあります。これは台湾の会社にも日本の会社にも当てはまります。締結までのタイムラインを把握するには、相手方の状況も含め、どのような準備や手続が必要であるのかをあらかじめ整理し、逆算して対応することが必要です。

なぜ

タイムラインは、主として必要な手続の数や次回の会議日程に左右されるものであり、相手方の熱意だけで決まるものではありません。ですので、ただ待つのではなく、契約締結にかかるプロセスやタイムラインについて、早めに相手方に確認しておくことが重要です。早く確認できるほど、貴社側の予定も立てやすくなります。 もう一つ、進み方を早める手立ての一部は貴社の側にあります。担当者の手元に必要な資料や情報がそろっているかどうかも、相手方の社内決裁プロセスの進み方を左右します。ですので、お尋ねになるべきは「いつ頃になりそうか」だけではなく、「ほかに何をご用意すればよいか」です。

どうする

1. 相手方に、次の三点を早めにご確認ください。この案件にどのような手続が必要であり、そのためにはいつまでに何をすべきであるのか、どのような資料やデータが必要なのか、の三点です。 2. 貴社側についてもご確認ください。株主間契約や投資契約に、契約締結には投資家の事前承認を要する旨の定めがないかを確認します。必要な準備と手続を洗い出し、相手方のタイムラインから逆算して対応します。 3. 正式契約の締結には特に時間がかかります。MOUを活用したり、PoCなどフェーズを分けて順次進めていくといった対応も実用的です。

日本の提携先との契約書に、どの国の法律によるかが記載されておりません。この場合、どうなるのでしょうか。また、日本法によると記載した場合、紛争は必ず日本の裁判所で争うことになるのでしょうか。

定めがない場合には、法律上のデフォルトルールにより決まり、その結果が貴社にとって有利であるとは限りません。また、日本法を準拠法としたからといって、必ず日本で裁判をすることになるわけではありません。準拠法と、どこで紛争を解決するかは、分けて合意することが可能です。 ある契約に適用される法、すなわち準拠法は、各国の国際私法によって判断されることとなります。日本の国際私法上、契約の成立および効力に関する準拠法は、原則として当事者が選択した地の法によります。準拠法とは、契約の成立および効力をどの国の法律で判断するかということです。契約書で準拠法の合意があれば、基本的にはその法律が適用されることとなります。 合意がない場合には、日本の国際私法上、最密接関係地法となります。日台企業間契約であれば、日本又は台湾のいずれかの法律になる可能性が高いです。さらに、もう一段階の推定があります。一方が特徴的給付を行う契約の場合には、その給付を行う者の常居所地法が最密接関係地法と推定されます。特徴的給付とは、その契約を特徴付ける給付を指します。例えば売買契約においては、代金の支払ではなく、目的物の引渡しによって売買という特徴が付与されますので、売主が特徴的給付を行う者ということになります。日台間の売買契約において準拠法の定めがなかった場合には、売主側の法律が準拠法として推定されることになります。 紛争解決に関する合意、すなわち裁判管轄条項や仲裁条項は、準拠法とは分けて合意することが可能です。準拠法と管轄を別々にすることもできます。例えば、日本法を準拠法としつつ、管轄は台湾の裁判所とする場合です。このとき、当該契約に関連する紛争は、台湾の裁判所において、日本法を適用する形で解決されることになります。このような場合には、裁判所が外国の法律に基づいて判断しなければなりませんので、準拠法と管轄が一致している方が、より適切かつ予測可能な判断を期待しやすいという側面があります。

なぜ

仲裁は当事者間の合意を前提とするため、紛争解決に関する合意がない場合には、日本や台湾での裁判で解決を図ることとなります。どの国の裁判所が管轄を有するかは、その国の民事訴訟法等の規定によって決まることとなります。 では、なぜ一致させることをお勧めするのでしょうか。裁判所が外国の法律を適用するという問題のほかに、より実際的な事情があります。当事者から見れば、自国の法律の方が基本的には馴染みがあり、予測可能性が高くなるといえます。契約締結段階で、相手方の国の法律の細かい内容まで確認することは容易ではありません。

どうする

1. 契約書に準拠法を明記してください。定めがない場合、適用される法律はデフォルトルールにより決まり、貴社が選んだものではなくなります。 2. あわせて、どこで紛争を解決するかも決めておいてください。準拠法とできる限り一致させることをお勧めします。別々にすることも可能ですが、その場合には、審理する裁判所が外国の法律に基づいて判断することになります。 3. NDAをご確認ください。NDAにも準拠法や管轄の規定が設けられることも良くあり、その規定がそのまま引き継がれることも多く、改めて交渉することが困難な場合にもあります。逆に、NDAで準拠法が合意され、正式契約で準拠法が合意されなかった場合、正式契約の準拠法もNDAの準拠法が適用される可能性もあります。両者で異なる規定が設けられた場合には、どちらが適用されるのかが不明確となり、無用な紛争が増えるおそれもあります。これらの規定は契約交渉時にはあまり重視されませんが、将来的に重大な問題を引き起こす場合もありますので、あらかじめ弁護士等の適切なアドバイスを求めておくことが重要です。