MARKET FAQ


紛争解決

日台取引の紛争解決条項では、裁判地だけでなく、誰が判断するか、手続が公開されるか、結果を国境を越えて執行できるかが重要です。訴訟・仲裁・調停・和解、守秘性、不服申立て、日本での承認・執行を比較し、契約締結前に実効性のある手段を選ぶためのテーマです。 本コーナーは、旭時報 SUNRISE(寧旭メディア)が Startup Island TAIWAN のために企画・制作しています。 監修|日本法務:法律事務所 ZeLo 日本税務:税理士法人ZeLo 台湾法務:中銀法律事務所 台湾財務:urCFO 本コーナーの内容は、2026 年 8 月時点の日本および台湾の法令に基づいています。その後の法改正は反映されていません。個別の案件については、専門家による個別の判断が必要です。

5. 紛争解決

日本の提携先から契約書のドラフトを受け取りました。紛争解決の条項には、東京の裁判所で解決すると書かれています。仲裁に変更するという選択肢もあると聞きましたが、この二つの書き方は何が違うのでしょうか。比べるときの基準を教えてください。

A:この二つの書き方の最も大きな違いは、判断権者と手続について当事者自治が認められるかどうか、そして判断の結果が国際的に通用するかどうかの2点です。 訴訟と仲裁の手続的な差異は様々なものがありますが、とりわけ大きな特徴として挙げられるのは次の2つです。 1. 判断権者(仲裁人)・手続に関する当事者自治が認められていることです。仲裁では、誰が判断するか、どのようなルールで手続を進めるかを当事者が決められます。訴訟にはこの余地がありません。 2. 仲裁判断が国際的に通用し得ることです。裁判所の判決をほかの国で使う場面は、これとは別の話になります。 特に日台間の取引における紛争解決については、2つ目の観点が重要です。ただし、国際的に通用するという点には、日本と台湾の間では条件があります。どちらの書き方にするかを決める前に、この点も考慮に入れてください。

なぜ

仲裁と訴訟のどちらを選ぶかを決めるときに、実際に評価すべきなのは次の4点です。これらは日本にかぎった話ではなく、どの国で事業を進める場合にも当てはまります。 1. 誰が判断し、どの国の手続で進むかです。訴訟の場合、その国の民事訴訟法に従って手続が進められ、その国の裁判官が判断を行うこととなります。ここで貴社がコントロールできない点は、次の2つです。 (1)国によっては、裁判官や裁判手続の信頼性に問題があることもあります。 (2)裁判官が必ずしも当該ビジネスの主題に精通しておらず、精緻な判断が期待できないこともあります。 2. 判断する人・手続・言語について、貴社に選ぶ余地があるかどうかです。外国での訴訟では、代理人の選定や手続言語などの点で不便さが生じるおそれがあります。相手方は自国で応訴するのに対し、貴社は不慣れな国で対応することになり、相手方との間で均衡を失するおそれもあります。 (1)仲裁の場合には、信頼できる、専門知識を有する仲裁人を当事者が選定できる可能性があるほか、代理人の選定や手続言語についても柔軟性があります。 (2)他方で、仲裁手続は基本的に一審限りです。仲裁判断に不服がある場合でも、訴訟のように第二審で本案について再審理を求めることはできません。 3. 手続が公開されるかどうかです。裁判は通常公開審理であるのに対し、仲裁は非公開が原則となります。紛争の存在や内容が守られるということは、スタートアップにとっても重要な利益となり得ます。秘密にしておきたい事情がある場合は、なおさらです。 4. 速さと費用は、いまは一概に言えません。仲裁の方が迅速かつ安価であると言われることもありましたが、近年では仲裁の長期化やコスト増なども指摘されるようになり、常に当てはまるとは言えません。

どうする

1. いま契約書に書かれているのがどちらの条項かを確認してください。「〇〇裁判所」と書かれていれば訴訟で解決する約定で、管轄条項と呼ばれます。管轄条項には、どの国の裁判所かに加えて、その国のどの裁判所かまで書かれていることもありますので、二つの層を確認してください。「〇〇仲裁機関の仲裁に付す」と書かれていれば仲裁で解決する約定であり、紛争の本案は、裁判ではなく仲裁によって判断されます。ここでいう「どの国か」は、知的財産の設問で扱っている「日本国内のどの裁判所か」とは別の層の話ですので、混同しないでください。 2. 次の3つを自問してください。 (1)判断する人・手続・言語について、選ぶ余地がほしいですか。 (2)紛争の存在と内容を、外部に対して秘密にしておきたいですか。 (3)本案について第二審がないことを、受け入れられますか。 3. 最後に執行を確認してください。どちらの書き方を選んでも、最後は同じ問いに戻ります。紛争解決の結果を得たあとで、実際に回収できるかどうかです。この点について、日本と台湾の間には特有の事情があり、一方の裁判所の判決を他方で執行できないおそれがあります。結果を台湾に持ち帰って使えるかどうか、どのように使うかも、検討すべき論点の1つです。契約を確定させる前に、採用しようとしている書き方を台湾側の弁護士に確認し、台湾側でも通ることを確かめてから署名してください。

日本の提携先と紛争になり、まず訴訟しか思い浮かびませんでした。訴訟以外に取り得る道はあるのでしょうか。調停を利用した場合、そこで成立した和解合意にはどのような効力がありますか。

A:訴訟と仲裁だけが道ではなく、近年は調停の活用が進んでおり、訴訟を提起したあとでも和解に向けた話合いの機会が閉ざされるわけではありません。 1. 調停は、中立な第三者が介在し、双方が受け入れられる結論を話合いでまとめる手続です。裁判所や仲裁人が判断を下すのではなく、当事者間で合意します。 2. 日本はシンガポール条約に加入し、条約実施法を制定しています。シンガポール条約の正式名称は「調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約」であり、調停で成立した和解合意を援用し、また執行するための共通の枠組みを定めるものです。そのため日本では、調停において成立した和解合意に基づく民事執行が、一定の要件を満たす場合に可能となっています。

なぜ

1. 訴訟・仲裁と比較した調停の利点は、次の4つです。 (1)迅速です。裁判や仲裁よりも迅速な解決が図れます。 (2)ビジネスに対する判断を他人に委ねずに済みます。裁判所や仲裁人がビジネスに対する判断を行うリスクを回避し、当事者間で合意できます。 (3)非公開です。裁判が原則として公開審理であるのに対し、調停は仲裁と同様に非公開です。紛争の存在や内容だけでなく、解決内容の秘密も守ることができます。 (4)合意内容が守られやすくなります。和解に達した場合、当事者お互いに譲歩・合意していることから、合意内容の遵守が期待できるとともに、当事者間の友好的な関係性の回復・維持に資すると考えられます。 2. 手続に入ったからといって、和解の道が閉ざされるわけではありません。裁判や仲裁においても、実際には各段階で和解が試みられることが通常です。仮に訴訟提起や仲裁申立てに至ったとしても、話合いの機会が制限されるわけではありません。 (1)むしろ、手続内で争点整理や証拠調べが進むにつれて、和解に向けた協議が促進されることも多いです。 (2)このように、国際ビジネス紛争は、常に裁判・仲裁で解決されなければならないものではなく、当事者や事業の状況、紛争の規模・内容等を踏まえて、多角的な解決方法の検討が必要となります。

どうする

1. 手段を選ぶ前に、目的と戦略を固めてください。裁判・仲裁にはコストも伴います。金銭の回収なのか、相手方の行為の停止なのか、提携関係の維持なのかを先に決めたうえで、どのような目的でこれらの手続・手段を用いるのかというゴールや戦略をあらかじめ整理・検討しておいてください。 2. 調停による場合は、和解合意書に「民事執行をすることができる」旨を記載してください。どのような和解合意でも執行できるわけではありません。シンガポール条約又はシンガポール条約の実施に関する法令に基づき民事執行をすることができる旨の合意をすることが、適用の要件となっています。 3. 相手方と連絡が取れなくなったときは、手続を一歩進めてください。国際ビジネス紛争では、相手方と音信不通になることもしばしばあります。訴訟や仲裁という法的な手続に移行すること、あるいは代理人弁護士を選任してそのような手続への移行を予告することによって、相手方との協議・交渉が促進され、和解に至ることもあります。

日本側との契約で、紛争解決の条項をひな形どおり「台湾の裁判所を管轄裁判所とする」と定めました。勝訴すれば、その判決を日本で執行できると考えていました。この書き方は、当社にとって有利なのでしょうか。

A:ひな形どおり台湾の裁判所を管轄裁判所とした場合、勝訴しても日本で執行できない可能性が高いため、紛争解決条項の定め方は執行と併せて考える必要があります。 日台間の契約における紛争解決条項の定め方については、次の5つのパターンが考えられます。 1. 日本での裁判、2. 台湾での裁判、3. 日本を仲裁地とする仲裁、4. 台湾を仲裁地とする仲裁、5. 第三国を仲裁地とする仲裁です。仲裁地とは、会議を行う場所ではなく、その仲裁が法律上どの国で行われたものとされるかを指します。 執行の観点では、日本から見ると、台湾での裁判、台湾を仲裁地とする仲裁、第三国を仲裁地とする仲裁は、外国裁判・仲裁判断となります。日本で執行するには、承認・執行の要件を満たす必要があります。承認された後に、強制執行の手続に進むこととなります。

なぜ

5つの書き方は、執行の場面で結果が異なります。台湾のスタートアップが直面しやすい順に見ていきます。 1. 台湾での裁判は、勝訴しても執行できないおそれがあります。台湾の裁判所の判決を日本で執行できるかという点については、承認が前提となります。特に問題となるのは、訴状等が被告に適法に送達されたか、または被告が応訴したかという点です。 (1)現在のところ日本と台湾の間には正式な国交がなく、台湾裁判所での訴訟に関し、日本に所在する被告に対して同規定を充たす送達は困難であると考えられます。 (2)そのため、日本企業が台湾で応訴しない限り、せっかく判決を得ても日本で執行できない可能性が高いです。 2. 日本での裁判は、日本での執行が容易な一方、日本の弁護士を選任する必要があります。日本における執行は、外国裁判・仲裁に比べて容易です。逆に日本の裁判所の判決については、台湾における執行が認められた事例があります。ただし、こちらも基本的には台湾企業が日本で応訴していた事例であり、応訴がなされなければやはり執行は困難とも考えられます。 3. 台湾又は第三国を仲裁地とする仲裁の場合、日本での承認および執行には、日本の仲裁法が適用されます。台湾や第三国を仲裁地とする仲裁による場合、日本においては仲裁法に基づき仲裁判断が承認され、同法に基づき執行することとなります。 (1)台湾を仲裁地とする場合、ニューヨーク条約は使えません。ニューヨーク条約の正式名称は「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」であり、締約国が相互に仲裁判断を承認し執行するための条約です。日本はニューヨーク条約の締約国ですが、相互主義の留保を行っているため、他の締約国の領域内で作成された仲裁判断にのみニューヨーク条約を適用する義務を負っています。台湾はニューヨーク条約の締約国ではないため、台湾を仲裁地とする仲裁についてニューヨーク条約は適用されません。 (2)日本では、法的根拠となるのは日本の仲裁法です。ニューヨーク条約が適用されないことは、日本で執行できないことを意味しません。根拠が条約ではなく日本の仲裁法になる、ということです。 4. 日本を仲裁地とする仲裁の場合、そこで作成された仲裁判断は、日本から見ると外国仲裁判断には当たりません。

どうする

1. 紛争解決の条項は、当該取引についてどのような問題が生じ得るかを先に考えたうえで、書き方を選んでください。仮に問題が生じた場合には、どのような紛争解決手段が適切か・実効的かという観点から比較検討することが重要です。ひな形をそのまま流用しないでください。 2. 日本側が仲裁手続を十分に理解しているとはかぎりません。日本の企業も特に国際取引においては仲裁条項を使用する事例も増えてきましたが、仲裁手続についてあまり理解していない場合や、依然として日本の裁判による解決を要求する場合も少なくありません。 3. 紛争解決の条項を、契約交渉全体の中に組み込んでください。準拠法や紛争解決に関する規定は、当事者間の交渉力が大きく反映されますので、他の条項も含めた全体的な契約交渉戦略を検討する必要があります。契約を確定させる前に、採用しようとしている書き方を台湾側の弁護士に確認し、台湾側での取扱いにも問題がないことを確認してから署名してください。